インボイス制度が始まってから、「1万円未満ならインボイスがなくても大丈夫」という話を聞いたことはないでしょうか。これは少額特例と呼ばれる経過措置です。
ただし、この特例はすべての事業者が使えるわけではありません。また、「1万円未満」の数え方にも独特のルールがあります。
2026年10月から免税事業者からの仕入れの控除割合が7割に下がることもあり、少額特例を正しく理解しておく重要性はこれまで以上に高まっています。この記事でわかりやすく整理します。
少額特例とは?
少額特例(正式名称は「一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置」)とは、税込1万円未満の課税仕入れについては、インボイスの保存がなくても、一定の事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除ができるという制度です。
ポイントは、相手がインボイス発行事業者かどうかを問わないことです。免税事業者からの仕入れであっても、1万円未満なら全額を仕入税額控除できます。
| 原則 | 少額特例 | |
|---|---|---|
| 必要な書類 | インボイス+帳簿 | 帳簿のみ |
| 相手が免税事業者のとき | 控除割合が制限される | 全額控除できる |
| 対象 | すべての課税仕入れ | 税込1万円未満のもの |
使えるのはどんな事業者?
少額特例を使えるのは、次のどちらかに当てはまる事業者です。
- 基準期間の課税売上高が1億円以下
- 特定期間の課税売上高が5,000万円以下
「基準期間」「特定期間」は、それぞれ次の期間を指します。
| 個人事業主 | 法人 | |
|---|---|---|
| 基準期間 | 前々年 | 前々事業年度 |
| 特定期間 | 前年の1月1日〜6月30日 | 前事業年度開始の日以後6か月間 |
どちらか一方の条件を満たせばよいので、たとえば前々年の売上が1億2,000万円あっても、前年上半期の売上が5,000万円以下なら適用できます。
⚠️ 注意:納税義務の判定では、特定期間を「課税売上高」ではなく「給与支払額」で判定することもできますが、少額特例の判定では給与での判定は使えません。課税売上高で判定します。
「1万円未満」はどう数える?
ここが一番の落とし穴です。1万円未満かどうかは、1回の取引の合計額(税込)で判定します。商品1つごとではありません。
| ケース | 判定 |
|---|---|
| 5,000円の商品と7,000円の商品を同時に購入(合計12,000円) | 対象外 |
| 5,000円の商品を購入し、別の日に7,000円の商品を購入 | どちらも対象 |
| 9,800円の飲食代(税込) | 対象 |
| 月額8,000円で、月ごとに役務提供が完了する顧問契約(年払い) | 原則として月額8,000円で判定 |
| 年間96,000円で一体のサービスを受ける契約 | 対象外 |
「1万円未満」であって「1万円以下」ではない点にも注意してください。ちょうど10,000円は対象外です。
また、税込で判定します。税抜9,800円(税込10,780円)の場合は対象外になります。
なお、判定するのは支払い方法ではなく、契約内容と実際の取引単位です。年払いにしたからといって、ただちに1年分の合計額で判定されるわけではありません。月ごとに役務提供が完了する契約であれば、その月額で判定できる場合があります。
いつまで使える?
少額特例が使えるのは、令和5年10月1日から令和11年(2029年)9月30日までに行う課税仕入れです。
あくまで期間限定の経過措置ですので、2029年10月以降は少額特例を利用できません。仕入税額控除を受けるには、他の帳簿のみ保存の特例に該当する場合を除き、原則としてインボイスと帳簿の保存が必要になります。
なお、この期限は「事業年度の途中でも到来する」点に注意が必要です。たとえば12月決算の法人であれば、2029年9月30日までの仕入れには使えますが、10月1日以降の仕入れには使えません。同じ事業年度の中で取扱いが変わります。
2026年10月からの変更との関係
免税事業者からの仕入れについては、これまで仕入税額相当額の80%を控除できる経過措置がありましたが、2026年9月30日で終了し、10月1日以降は70%に下がります。令和8年度税制改正により、適用期限が延長されるとともに、控除割合が段階的に縮小する形に見直されました。
| 時期 | 免税事業者からの仕入れの控除割合 |
|---|---|
| 〜2026年9月30日 | 80% |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% |
| 2031年10月1日〜 | 控除不可(0%) |
ここで重要なのは、少額特例が使える取引なら、この割合の制限を受けずに全額控除できるということです。
たとえば免税事業者に8,800円(税込)を支払った場合、少額特例を使えば消費税800円を全額控除できます。少額特例が使えず、70%控除の経過措置を適用する場合、控除できる消費税額は560円です。
10月からの変更については「免税事業者からの仕入れ「8割控除」は2026年9月末で終了」で詳しく解説しています。
帳簿に何を書けばいい?
少額特例を使う場合でも、帳簿への記載は必要です。記載事項は通常の帳簿と同じで、次の4つです。
- 相手方の氏名または名称
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象ならその旨)
- 支払対価の額
「少額特例を使った」という特別な記載は不要です。この点は、他の経過措置(免税事業者からの仕入れに係る80%控除など)で「経過措置の適用を受ける旨」の記載が必要なのと対照的です。
実務上は、いつもどおり会計ソフトに入力するだけで済むことがほとんどです。
よくある質問
領収書は捨ててもいいですか?
いいえ。少額特例は消費税の仕入税額控除についての取扱いです。所得税・法人税では、経費であることを証明するために領収書等の保存が必要です。捨ててはいけません。
簡易課税や2割特例・3割特例でも関係ありますか?
関係ありません。簡易課税、2割特例または3割特例では、仕入税額を実額で積み上げて計算しないため、納税額の計算上、少額特例を使う必要はありません。少額特例が意味を持つのは、原則課税(本則課税)で申告している場合だけです。
なお3割特例は、個人事業者でいえば令和9年分・令和10年分に関係する制度です。ご自身がどの方法で申告するかによって、少額特例を意識する必要があるかどうかが変わります。
1回の取引を分ければ使えますか?
実際の取引が1回であるにもかかわらず、意図的に請求を分割するような処理は認められません。取引の実態で判定されるとお考えください。
売上が1億円を超えたら、いつから使えなくなりますか?
基準期間(前々年・前々事業年度)の売上で判定するため、2年後の課税期間から適用できなくなります。ただし、特定期間の課税売上高が5,000万円以下であれば、引き続き使えます。
まとめ
- 少額特例は、税込1万円未満の課税仕入れなら帳簿の保存だけで仕入税額控除ができる制度
- 対象は基準期間の課税売上高1億円以下、または特定期間5,000万円以下の事業者
- 1万円未満は1回の取引の合計額(税込)で判定。商品ごとではない
- 適用は2029年9月30日までの期間限定
- 免税事業者からの仕入れでも全額控除できる。2026年10月からの7割控除への引き下げの影響を避けられる
少額の経費が多い事業者ほど、この特例の恩恵は大きくなります。自社が対象になるかどうか、一度確認しておくことをおすすめします。



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