法人成りしたときの資産・借入金・在庫の引き継ぎ方

法人向け

個人事業主が法人化(法人成り)するとき、それまで事業で使っていた資産・在庫・借入金をどう法人へ引き継ぐかは重要なポイントです。引き継ぎ方法によって税金の扱いも変わります。この記事でわかりやすく解説します。

引き継ぎの3つの方法

個人の資産を法人へ引き継ぐ主な方法は次の3つです。

  • 売買:個人が法人に資産を売却する(最も一般的)
  • 現物出資:資産を出資して法人の株式を受け取る
  • 賃貸借:個人が所有したまま法人に貸す
方法メリットデメリット
売買手続きが簡単。金額を自由に設計しやすい法人に資金が必要(未払金にすることも可)
現物出資法人に現金がなくても資本にできる500万円超は検査役の調査等が必要で手間がかかる
賃貸借名義変更が不要。個人に賃料収入が入る個人に不動産所得等が発生。適正賃料の設定が必要

実務では売買がもっとも多く使われます。設立直後で法人に資金がない場合は、代金を「未払金」として計上し、あとから分割で支払う形も可能です。

資産の種類別・引き継ぎの考え方

資産の種類おすすめの方法ポイント
在庫(棚卸資産)売買通常の販売価額が基準
車両・備品売買時価(中古相場)で。査定資料を残す
建物売買または賃貸借登記費用・不動産取得税がかかる
土地賃貸借が多い移転コストが大きいため個人所有のままが一般的
売掛金・買掛金個人で回収・支払債権譲渡は取引先への通知が必要
借入金金融機関と相談債務引受には金融機関の承諾が必須

在庫(棚卸資産)の引き継ぎ

在庫は原則として、引継時の時価(通常の販売価額)を基準に法人へ売却します。個人側では事業所得の売上となり、法人側では仕入高または棚卸資産として処理します。

原価のまま安く譲渡しても、個人側では通常の販売価額を基準に課税される可能性があるため注意が必要です。

実務上は、通常の販売価額のおおむね70%以上であれば問題になりにくいとされています。ただし、在庫の状態(型落ち・劣化など)によって判断は変わるため、棚卸明細と価額の根拠を残しておきましょう。

固定資産(車・備品など)の引き継ぎ

車両・機械・備品などの固定資産は、売買または現物出資で引き継ぎます。引継価額は時価を基本とし、中古市場の相場・査定書・見積書などの資料を保存しておきます。個人事業の帳簿価額をそのまま引継価額にできるとは限りません

著しく低い価額で法人へ譲渡すると、個人側のみなし譲渡課税や、法人側の受贈益課税が問題になる場合があります。

車両・機械・備品など事業用固定資産の売却益は、個人側では原則として譲渡所得になります。土地・建物は分離課税となるなど、資産の種類によって計算方法が異なります。

一方、法人が取得した車両・備品などは、購入時に全額経費になるとは限りません。法人側では取得価額を固定資産に計上し、中古資産として算定した耐用年数などにより減価償却します。

消費税については、個人事業主が課税事業者である場合、在庫や車両・備品などの譲渡は原則として消費税の課税対象です(土地の譲渡など非課税となる取引もあります)。なお、免税事業者やインボイス未登録事業者から取得した場合は、法人側の仕入税額控除にも注意が必要です。

法人側の仕訳例

在庫150万円・車両80万円を合計230万円で個人から引き継ぎ、代金は未払いとする場合(税抜経理・消費税10%)

(借方)仕入高 1,500,000
(借方)車両運搬具 800,000
(借方)仮払消費税 230,000
 (貸方)未払金 2,530,000

この未払金は、法人の資金繰りに応じて分割で個人へ支払っていきます。ただし、いつまでも支払わずに放置すると「役員借入金」と実質的に変わらない状態になり、相続時に問題になることもあります。返済計画を決めておきましょう。

借入金の引き継ぎ

個人名義の借入金は、法人成りしただけでは自動的に法人へ移りません。法人が債務を引き受け、個人が返済義務を免れるには(債務引受)、原則として金融機関との契約と承諾が必要です。法人の帳簿に借入金を計上するだけでは名義変更にならないため、必ず事前に金融機関へ相談しましょう。

また、法人が引き受けた債務は、資産譲渡の対価に含まれることがある点にも注意が必要です。

実務では、借入金だけを個人に残し、資産の売却代金で返済していくケースもあります。金融機関と相談して進めましょう。

特に日本政策金融公庫や信用保証協会付きの融資は、法人への切り替えに審査が必要です。法人成りを決めた段階で早めに担当者へ相談してください。

売掛金・買掛金の引き継ぎ

売掛金や買掛金も、自動的には法人へ引き継がれません。個人事業時代の売掛金を個人が回収するのか、債権譲渡によって法人へ移すのかを決め、取引先への通知や契約手続きを行います。

実務では、個人でそのまま回収するほうがシンプルです。債権譲渡は取引先ごとの通知・承諾が必要で手間がかかります。ただし個人口座に入金が続くため、個人事業の廃業届を出したあとも、口座はしばらく残しておく必要があります。

引き継ぎ以外に必要な手続き

手続き提出先期限
個人事業の開業・廃業等届出書税務署廃業日から1か月以内
所得税の青色申告の取りやめ届出書税務署取りやめる年の翌年3月15日まで
給与支払事務所等の廃止届出書税務署廃止から1か月以内
事業廃止届出書(消費税)税務署速やかに
個人事業税の事業廃止申告都道府県各自治体の定めによる

廃業年分の確定申告も、翌年3月15日までに忘れずに行います。詳しくは「個人事業主が廃業するときの手続きと税金」をご覧ください。

注意点

  • 引き継ぎ価額は適正な価額(時価)で。低すぎ・高すぎると税務上の問題になる
  • 資産の譲渡で個人側に所得税・消費税がかかる場合がある
  • 借入金の引き継ぎは金融機関の承諾が必須
  • 売買契約書・資産一覧・在庫明細・査定資料・取締役の決定書などの根拠書類を保存する
  • 法人成りした年は、個人と法人の両方で申告が必要になる

よくある質問

資産を無償で法人に移すことはできますか?

おすすめしません。無償または著しく低い価額で移すと、法人側で受贈益として法人税が課税されます。個人側も時価で譲渡したものとみなされる場合があるため、かえって税負担が重くなることがあります。

法人成りの年に消費税はどうなりますか?

個人と法人は別人格として扱われるため、法人は原則として設立1期目・2期目は免税事業者になります(資本金1,000万円未満・特定期間の要件を満たす場合)。ただし、インボイス登録をすれば初年度から課税事業者です。

車のローンが残っている場合は?

所有権留保が付いていることが多く、完済まで名義変更できません。この場合は個人所有のまま法人に貸す(賃貸借)か、法人が使用料を負担する形にするのが現実的です。

まとめ

  • 引き継ぎ方法は売買・現物出資・賃貸借の3つ。実務では売買が中心
  • 価額は必ず時価で。根拠資料を必ず残す
  • 土地・建物は移転コストが大きいため賃貸借も検討する
  • 借入金は金融機関の承諾なしに移せない
  • 税務署への廃業関連の届出も忘れずに

法人成りでの資産・在庫・借入金の引き継ぎは、売買・現物出資・賃貸借などの方法があり、価額の設定や税金の扱いが複雑です。引き継ぎ方法によって税負担が変わるため、法人成りの前に税理士に相談して計画的に進めることをおすすめします。

参考

コメント

タイトルとURLをコピーしました