社用車を買い替えるとき、新しい車の経理には気を配っても、売却した側の処理は意外と見落とされがちです。
法人の車の売却は、個人事業主とは扱いがまったく違います。譲渡所得ではなく、固定資産売却損益として損金・益金になります。
この記事では、法人が車を売却したときの経理処理を、仕訳例を交えて解説します。
まず、個人事業主との違いを押さえる
| 個人事業主 | 法人 | |
|---|---|---|
| 所得の区分 | 譲渡所得(事業所得ではない) | 固定資産売却損益 |
| 特別控除 | 最高50万円あり | なし |
| 私用部分 | 按分が必要 | 該当なし |
| 消費税 | 事業用部分のみ課税 | 売却対価が課税売上 |
個人事業主の場合は「個人事業主が車を売却したときの税金」をご覧ください。法人には50万円の特別控除がありませんので、売却益が出れば全額が課税対象になります。
売却損益の計算方法
計算はシンプルです。
売却価額 − 帳簿価額(未償却残高)= 売却損益
| 結果 | 科目 | 扱い |
|---|---|---|
| 売却価額 > 帳簿価額 | 固定資産売却益 | 益金(課税対象) |
| 売却価額 < 帳簿価額 | 固定資産売却損 | 損金 |
ポイントは帳簿価額をいくらで計算するかです。ここで次の論点が出てきます。
期中に売却したときの減価償却
売却した年度に、売却の月までの減価償却費を計上するかどうかという問題があります。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| ① 償却しない | 期首の帳簿価額をそのまま使って売却損益を計算 |
| ② 月割で償却する | 売却した月までの償却費を計上し、その後の帳簿価額で計算 |
法人はどちらでも構いません。法人の減価償却は「損金経理」が前提なので、償却費を計上しなければその分は損金になりませんが、その分だけ売却損が増える(売却益が減る)ため、結果として利益は同じになります。
【例】期首帳簿価額120万円、当期の償却費(10か月分)30万円、売却価額100万円
| ① 償却しない | ② 月割で償却 | |
|---|---|---|
| 減価償却費 | 0円 | 30万円 |
| 帳簿価額 | 120万円 | 90万円 |
| 売却損益 | ▲20万円(損) | +10万円(益) |
| 差引の損益 | ▲20万円 | ▲20万円 |
どちらでも最終的な損益は同じです。ただし、決算書の見え方が変わります。継続して同じ方法で処理しましょう。
※ 個人事業主にも、売却年の償却費を事業所得等の必要経費に算入する取扱いがあります(所得税基本通達49-54)。法人とは所得区分や計算方法が異なりますので、同じようには考えられません。
仕訳の書き方
以下は課税事業者・税抜経理・直接法を前提とした仕訳です。リサイクル預託金や諸費用等は省略しています(減価償却累計額を使う間接法では、貸方の科目が変わります)。
① 売却益が出る場合
帳簿価額80万円の車を、110万円(税込)で売却した場合
(借方)現金預金 1,100,000 / (貸方)車両運搬具 800,000
/ (貸方)固定資産売却益 200,000
/ (貸方)仮受消費税 100,000
② 売却損が出る場合
帳簿価額80万円の車を、55万円(税込)で売却した場合
(借方)現金預金 550,000 / (貸方)車両運搬具 800,000
(借方)固定資産売却損 300,000 / (貸方)仮受消費税 50,000
※税抜経理の場合の仕訳です。税込経理では消費税を分けずに処理します。
消費税は売却益ではなく、車の売却対価にかかる
ここは特に注意が必要です。以下は、国内での通常の社用車の売却を想定した説明です。
事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡は、消費税の課税対象です。車の売却もこれに該当します。
| ケース | 消費税 |
|---|---|
| 車を売却した | 課税売上(売却対価の全額) |
| 下取りに出した | 課税売上(下取り価額の全額) |
| リサイクル預託金相当額 | 非課税(金銭債権の譲渡) |
| 廃車にした(対価なし) | 不課税 |
課税売上になるのは「売却益」ではなく「売却対価」です。売却損が出ていても消費税はかかります。ただしリサイクル預託金相当額は除きます(後述)。
先ほどの仕訳例でいえば、税込110万円で売却した場合、課税売上は100万円、消費税等が10万円です。
また、車の売却が課税売上割合に影響する点にもご注意ください。高額な車を売却した年は、課税売上割合が変動することがあります。
簡易課税の場合は「第4種事業」
簡易課税を選択している場合、事業で使用していた固定資産の売却は、原則として第4種事業になります。
本業が小売業(第2種)やサービス業(第5種)であっても、車の売却は本業とは別に判定します。みなし仕入率を間違えないようご注意ください。
下取りに出したときの処理
買い替えで下取りに出した場合、「売却」と「購入」は別の取引として処理します。差額だけを計上してはいけません。
【例】帳簿価額50万円の車を下取り価額33万円(税込)で引き取ってもらい、新車を330万円(税込)で購入。差額297万円を支払った場合
旧車の売却
(借方)未収入金 330,000 / (貸方)車両運搬具 500,000
(借方)固定資産売却損 200,000 / (貸方)仮受消費税 30,000
新車の購入
(借方)車両運搬具 3,000,000 / (貸方)未収入金 330,000
(借方)仮払消費税 300,000 / (貸方)現金預金 2,970,000
差額だけで処理すると、消費税の課税売上が計上されず、申告が誤ります。売買契約書や注文書で下取り価額を必ず確認してください。
見落としやすい3つの項目
① リサイクル預託金
購入時に支払ったリサイクル預託金は、減価償却の対象ではなく資産(預託金など)として計上されています。
車の売却とともに、リサイクル預託金に係る権利も買主へ譲渡します。受け取った預託金相当額は、帳簿上の預託金を取り崩して処理します。資産計上したままになっていないか、帳簿を確認してください。
消費税上は、金銭債権の譲渡として非課税です。資金管理法人から返還されるのではなく、預託金に係る権利を買主へ譲る取引であるためです。「不課税」ではありません。
② 未経過分の自動車税
年度の途中で売却すると、買主から未経過分の自動車税相当額を受け取ることがあります。
自動車税は4月1日現在の所有者に課される税金です。買主が支払う未経過期間分は、税金そのものではなく「その期間内に継続して乗用できる中古車の購入代金の一部」として扱われます。
したがって、車両本体価格と区分して表示したとしても消費税の課税売上に含めます。「租税公課のマイナス」で処理しないよう注意してください。
③ 保険料の精算
ここは「誰から受け取るか」で扱いが変わります。混同しやすいところです。
| 受取金の内容 | 消費税上の扱い |
|---|---|
| 保険会社から受け取る解約返戻金 | 車の課税売上には含めない |
| 買主から受け取る未経過自賠責保険料相当額 | 売却対価に含め、課税売上 |
| 買主から受け取る未経過自動車税相当額 | 売却対価に含め、課税売上 |
買主から受け取る未経過分は、いずれも「中古車の購入代金の一部」と扱われます。車両本体価格と区分して表示していても同じです。
なお、保険料を前払費用に計上していた場合は、その残高の取り崩しも必要です。
社長個人に売却するときは要注意
「社用車を社長個人が買い取る」というケースは実務でよくありますが、価格の設定に注意が必要です。
役員等に対して資産を時価より低い価額で譲渡した場合、時価と譲渡価額との差額は役員給与として扱われます。
| 結果 | |
|---|---|
| 会社側 | 差額が役員給与に。定期同額給与等に該当しなければ損金不算入 |
| 社長側 | 差額が給与所得として課税(源泉徴収も必要) |
「帳簿価額が1円だから1円で売る」という処理は危険です。帳簿価額と時価は別物です。中古車の買取査定や、業者の見積りなど、時価を裏づける資料を残しておきましょう。
消費税にも注意が必要です。法人が役員へ資産を譲渡した対価の額が時価のおおむね50%未満である場合、原則として時価を基に消費税を計算します(みなし譲渡)。
なお、50%以上であれば法人税・給与課税の面で問題がない、という意味ではありません。時価との差額は役員給与の対象になり得ます。
よくある質問
売却損は全額が損金になりますか?
通常の第三者との取引であれば、全額が損金になります。個人事業主のような50万円の特別控除はありませんが、逆に損失も制限なく計上できます。
廃車にした場合はどうなりますか?
帳簿価額を「固定資産除却損」として損金に計上します。対価を受け取っていないため消費税は不課税です。ただし、スクラップとして買い取ってもらった場合は、その金額が課税売上になります。
⚠️ 一時抹消登録との区別にご注意ください。一時抹消登録をしただけでは、当然に全額を除却できるわけではありません。解体・廃棄の事実と、それを示す処分資料(解体証明書、リサイクル券の控えなど)を確認してください。
売却益が出たとき、節税する方法はありますか?
売却のタイミングを調整して、他の損失が出る期にぶつけるといった方法は考えられます。
なお、売却益は売却価額が帳簿価額を上回った場合に生じます。減価償却による帳簿価額の減少だけでなく、中古車相場の変動も影響します。相場が上昇している車種では、想定外の売却益が出ることもあります。
リース車を途中解約した場合は?
適用する会計基準や契約内容によって異なります。従来のオペレーティング・リースであれば車は資産計上されていないため解約金を費用処理し、ファイナンス・リースであれば計上済みの資産・負債を精算します。
ただし、新リース会計基準を適用する会社では、従来のオペレーティング・リースも原則として使用権資産等を計上します。一律には判断できませんので、個別にご確認ください。
まとめ
- 法人の車の売却は固定資産売却損益。譲渡所得ではなく、50万円の特別控除もない
- 期中売却の減価償却はしてもしなくてもよい(最終的な損益は同じ)
- 消費税は売却対価が課税売上。売却損が出ていてもかかる(リサイクル預託金相当額を除く)
- 下取りは売却と購入を別々に処理する。差額だけの計上は誤り
- リサイクル預託金は非課税、買主から受け取る未経過自動車税・自賠責保険料は課税売上
- 社長個人への売却は時価で。低額譲渡は役員給与とみなされ、時価の50%未満では消費税も時価基準に
社用車の買い替えをご検討中でしたら、売却側の処理もあわせてご相談ください。



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