税務調査といえば、調査官が事務所に来て帳簿を確認する対面のイメージが一般的です。国税庁は、政府共通の業務環境「GSS(ガバメントソリューションサービス)」の導入にともない、税務調査の一部で、メールやWeb会議などのオンラインツールを利用できる仕組みを順次導入しています。この記事では、どんなツールが使えるのか、事前に必要な登録手続き、そして利用時のルールをわかりやすく解説します。
これまでとどう変わるのか
オンラインツールの利用は、これまで国税局の調査課が所管する大規模法人の調査で試行的に行われてきました。今回の見直しにより、税務署が所管する法人や個人事業者も対象になります。
税目にも制限はなく、法人税・消費税・源泉所得税・所得税・相続税・贈与税など、すべての国税が対象です。また、税務調査だけでなく、行政指導・滞納整理・査察調査でも利用されます。
ただし、Microsoft TeamsによるWeb会議は、滞納整理および査察調査では利用されません。利用できるツールは手続きの内容によって異なります。
使えるオンラインツールは4つ
| ツール | 主な用途 |
|---|---|
| インターネットメール | 調査官との日常的な連絡 |
| Microsoft Teams | Web会議による面談 |
| PrimeDrive | 大容量データのやりとり(オンラインストレージ) |
| Microsoft Forms | 利用開始時の登録 |
開始スケジュール
- 令和7年10月:金沢国税局・福岡国税局で利用が開始
- その後、各国税局へ順次拡大
令和8年8月現在、国税庁ホームページには全国の国税局・沖縄国税事務所の登録案内が掲載されています。
利用には「税務署ごとの登録」が必要
ここが実務上もっとも重要なポイントです。登録フォームは税務署ごと・国税局の部署ごとに用意されています。一度登録すればどこでも使える、という仕組みではありません。
利用開始までの流れは次のとおりです。
- 税務署等の担当者から利用の意思確認を受ける
- 「オンラインツールの利用に関する同意事項」の内容に同意する
- 該当する税務署のMicrosoft Formsからメールアドレス等を登録
- 担当者からテストメールが届くので、返信すると利用開始
Web会議やオンラインストレージは、その後に担当者からメールで送られてくるURLにアクセスして利用します。
メール利用の注意点
なりすましメールに注意
税務署等の職員が使用するメールアドレスのドメインは「nta.go.jp」に限られます。ただし、送信元表示だけで判断せず、事前に担当者から連絡を受けていないメールや不審なURLが届いた場合は、メールに記載された連絡先ではなく、税務署の代表番号へ確認しましょう。
マイナンバーは取り扱わない
オンラインツールでは、氏名・住所・電話番号などを扱う場合がありますが、マイナンバーを含む情報は対象外です。
容量の制限
- メール:本文と添付ファイルを合わせて1通20MBまで
- PrimeDrive:1回20ファイルまで、1ファイル1.9GBまで
調査が終わるとメールは使えなくなる
登録したメールアドレスは「ホワイトリスト」で管理されており、次のような場合には削除され、送受信ができなくなります。事前に担当者から連絡があります。
- 調査等が終了し、メールの利用が不要になった場合
- 納税地の管轄外へ異動したことを把握した場合
- 納税者側から利用終了の申し出があった場合
税理士のメールアドレスは継続利用できる
税理士のメールアドレスは税理士専用のホワイトリストに登録され、調査が終わっても削除されません。その税務署の課税部門で継続して利用できます。削除を希望する場合は、申し出れば対応してもらえます。
アドレス変更・税務署の管轄変更があったとき
メールアドレスを変更する場合は、担当者に申し出たうえで再登録が必要です。再登録すると、変更前のアドレスはホワイトリストから削除されます。
本店移転などで管轄の税務署が変わった場合も、移転後の税務署を選んで登録フォームから再登録すれば、引き続き利用できます。
Teams会議のルールは厳格
Web会議で面談を行う場合、担当者からミーティングリンク・会議ID・パスコードがメールで届きます。日程調整の際に、双方の出席者が事前に確認されます。
禁止されていること
- 録音・録画
- チャット(メッセージ)機能の利用
- 文字起こし(トランスクリプション)・ホワイトボード機能の利用
- Teams画面の撮影・配信
- 事前に税務署等へ伝えていない参加者の同席・参加
参加者について補足すると、一律に関与税理士以外を禁止しているわけではありません。家族、経理担当者、補助者などでも、事前に参加者として確認されていれば参加できる可能性があります。逆に、事前に伝えていない人が同席していると問題になります。
場所と本人確認
実施場所は、自宅や事業所のほか、第三者に情報が漏れるおそれのない個室などとされています。面談時はカメラをオンにして本人確認が行われ、事前に調整した参加者以外が周囲にいないことも確認されます。疑わしい場合は、カメラを動かして室内全体を映すよう依頼されることもあります。
事前に伝えていない人が内容を聞ける状態にあるなど情報漏えいのおそれがあると判断された場合や、禁止されている機能の利用が発覚した場合は、守秘義務の観点からその場でWeb会議が中止されることがあります。カフェなど公共の場所からの参加は避けるべきでしょう。
なお、画面共有は利用できます。会議終了後は、担当者によってTeams会議室が削除されます。
PrimeDrive(資料のやりとり)の注意点
データでの資料提出を求められた場合や、容量が大きい資料を提出する場合に使われます。送信時はパスワードを設定し、パスワードは電話など別の手段で連絡する運用です。これは双方向で同じルールです。
アップロードしたデータは担当者がダウンロードした後に削除されるため、提出者側で後から内容を確認することはできません。提出した資料は、手元にも控えを残しておきましょう。
最も注意すべき点として、法令上書面またはe-Taxでの提出が求められている申告書等をPrimeDriveで提出しても、正式な提出とは認められません。改めて書面またはe-Taxで提出し直す必要があります。あくまで調査の過程で資料をやりとりするための手段だと理解しておきましょう。
送受信したメールやデータは国税庁が保存する
やりとりしたメールやデータのうち保存が必要なものは、行政文書管理規則等に従って厳重に管理され、保存期間が満了した後に消去されます。オンラインだからといって記録が残らないわけではない点は、対面と同じです。
オンラインを希望しても対面になることがある
この取組は国税当局の判断により、必要に応じて行われるものです。税務調査は事業活動の現況確認が不可欠であることから、臨場(対面)による調査が原則とされており、効率的な調査に資すると認められる場合に限ってオンラインが使われます。
また、利用は担当者と利用者の双方の合意がある場合に限られます。納税者側が希望しても、対面で実施されることがある点は押さえておきましょう。
まとめ
- 全税目の税務調査・行政指導等でメール・Web会議・オンラインストレージが利用可能に
- 利用には税務署ごとの登録フォームからの事前登録が必要
- Teams会議は録音・録画・チャット、事前に伝えていない参加者の同席が禁止。場所にも配慮が必要
- 申告書等をPrimeDriveで出しても正式な提出にならない
- あくまで対面が原則で、当局の判断と双方の合意があるときに利用される
税務調査そのものへの備えについては「税務調査で見られやすいポイント」、調査の前段階である行政指導については「税務署から「お尋ね」が届いたらどうする?」もあわせてご覧ください。



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