75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度では、これまで確定申告をしなければ保険料の計算に反映されなかった「源泉徴収ありの特定口座」の金融所得についても、将来的に反映されることになりました。
令和8年(2026年)5月に改正法が成立し、金融機関から後期高齢者医療広域連合へ金融所得の情報を提供する仕組みが整備されます。この記事では、対象となる金融所得、保険料や窓口負担への影響、実施時期をわかりやすく解説します。
※後期高齢者医療制度は原則として75歳以上の方が対象ですが、一定の障害があり、認定を受けた65歳以上75歳未満の方も加入する場合があります。
なぜ制度が見直されるのか
現在の後期高齢者医療制度では、保険料や医療費の窓口負担割合を、主に住民税の所得情報をもとに判定しています。
上場株式等の配当や売却益について確定申告をすれば、その所得が自治体に把握され、後期高齢者医療の保険料などに反映されます。一方、源泉徴収ありの特定口座を利用し、確定申告をしない場合は、金融機関で税金の精算が完了します。そのため、同じ金融所得があっても、確定申告をした人としなかった人で、後期高齢者医療の負担が異なることがありました。
この不公平を解消するため、確定申告をしない金融所得についても、後期高齢者医療制度に反映する仕組みが導入されます。
改正法が成立し、制度の導入が確定
「健康保険法等の一部を改正する法律」は令和8年5月29日に成立し、同年6月5日に「令和8年法律第31号」として公布されました。
改正により、金融機関等が税務署へ提出している法定調書の情報を、後期高齢者医療広域連合にもオンラインで提供する仕組みが整備されます。これにより、確定申告をしていない上場株式等の金融所得も把握し、次の判定に反映できるようになります。
- 後期高齢者医療保険料
- 医療機関での窓口負担割合
- 高額療養費などの所得区分
- その他、所得を基準として行われる給付・負担の判定
正確には「社会保険全般の負担が増える」という改正ではなく、主に後期高齢者医療制度の保険料や窓口負担などに関する改正です。
対象となる金融所得
対象となるのは、上場株式等に関する金融所得のうち、これまで申告不要を選択すると自治体が把握できなかったものです。具体的には、次のような所得が想定されています。
- 源泉徴収ありの特定口座内で生じた上場株式等の譲渡所得
- 申告不要を選択した上場株式等の配当所得
- 上場株式等に係る一定の利子所得
- 公募株式投資信託の売却益や分配金など
たとえば、源泉徴収ありの特定口座で株式を売却して500万円の利益が出ても、確定申告をしなければ、現在は原則として後期高齢者医療の保険料計算に反映されません。改正後は、金融機関から提供される情報を利用して、その利益が保険料や窓口負担割合などに反映される可能性があります。
なお、どの法定調書の情報を利用し、譲渡損失や複数口座の損益をどのように調整するかなど、具体的な算定方法は今後の政令・省令等で定められます。
NISA口座の利益は対象外
NISA口座で得た売却益や配当等は、税法上の非課税所得です。
今回の改正は、源泉徴収によって課税関係を終了させた上場株式等の金融所得を後期高齢者医療制度に反映するものです。したがって、NISA口座内の非課税所得まで保険料計算に含めるという内容ではありません。
ただし、NISA口座以外の源泉徴収ありの特定口座で生じた譲渡益や、申告不要を選択した上場株式等の配当などは、対象になる見込みです。NISAの仕組みについては「NISAの節税効果をわかりやすく解説」もあわせてご覧ください。
何の負担が増える可能性があるのか
後期高齢者医療保険料
後期高齢者医療保険料は、被保険者が負担する「均等割」と、所得に応じて負担する「所得割」の合計で計算されます。
特定口座の金融所得が所得計算に加わると、所得割額が増える可能性があります。また、世帯所得が増えることにより、均等割の7割・5割・2割軽減を受けられなくなる場合も考えられます。
医療費の窓口負担割合
後期高齢者医療制度の窓口負担割合は、所得に応じて1割・2割・3割に分かれています。金融所得を含めた判定によって所得区分が変わると、窓口負担割合が上がる可能性があります。
高額療養費などの所得区分
高額療養費の自己負担限度額も所得区分によって異なります。金融所得が反映されることで所得区分が上がると、1か月当たりの自己負担限度額が高くなる可能性があります。
すべての人の負担が増えるわけではない
改正後も、特定口座を持っているだけで保険料が上がるわけではありません。次のような場合は、負担が変わらないこともあります。
- 特定口座で利益が生じていない
- 売却損が出ている
- 金融所得を含めても所得区分が変わらない
- すでに保険料が賦課限度額に達している
- NISA口座内でのみ取引している
実際の影響は、金融所得の金額、損失との相殺方法、基礎控除、各都道府県の保険料率、世帯の所得状況などによって異なります。「金融所得がある人は必ず負担が増える」と言い切ることはできません。
実施時期はいつから?
法律は成立していますが、令和8年から直ちに特定口座の金融所得が保険料へ反映されるわけではありません。金融所得に関する規定は、法律の公布後5年以内に政令で定める日から施行されます。
厚生労働省の資料では、次の準備が必要とされています。
- 金融機関からの法定調書のオンライン提出
- 法定調書データベースの構築
- マイナンバーとの正確なひも付け
- 市区町村・後期高齢者医療広域連合のシステム改修
厚生労働省は、実際に保険料や窓口負担へ反映するまで、法律の公布後4〜5年程度という想定スケジュールを示しています。ただし、これはあくまで見込みです。具体的な施行日や、何年分の金融所得から対象になるかは今後決まります。
今後確認しておきたいこと
今回の改正については、次の点が今後、政令・省令や運用通知などで明らかになると考えられます。
- 対象となる金融商品の具体的な範囲
- 譲渡損失や繰越損失の取扱い
- 複数の証券会社を利用している場合の合算方法
- 配当所得と譲渡損失の損益通算
- 保険料へ反映される最初の年度
- 窓口負担割合の変更時期
- 被保険者本人や家族への通知方法
証券口座の移管や売却などを急いで判断するのではなく、今後公表される具体的な計算方法を確認することが大切です。
まとめ
令和8年の法改正により、75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度では、源泉徴収ありの特定口座など、確定申告をしない上場株式等の金融所得についても、将来的に保険料や窓口負担割合などへ反映されることになりました。ポイントは次のとおりです。
- 改正法は令和8年5月29日に成立、6月5日に公布
- 源泉徴収ありの特定口座の譲渡所得なども対象になる見込み
- 後期高齢者医療保険料だけでなく、窓口負担割合等にも影響する可能性がある
- NISA口座内の非課税所得は対象外
- 特定口座を持っているだけで負担が増えるわけではない
- 具体的な施行日と計算方法は今後、政令等で決まる
- 実際の反映は公布後4〜5年程度が想定されている
制度の導入は確定しましたが、具体的な負担額まで確定したわけではありません。今後の政令や厚生労働省の案内を確認しましょう。



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