アパートやマンション、貸家、土地などを貸して得た収入は「不動産所得」になります。サラリーマン大家さんや、相続で賃貸物件を引き継いだ方も多いのではないでしょうか。
なお、駐車場は管理の方法によって所得の区分が変わります。月極駐車場など、土地や駐車スペースを貸すだけであれば、原則として不動産所得です。一方、事業者が自己の責任で車両を保管・管理する駐車場は、事業所得または雑所得になる場合があります。
不動産所得は「収入 − 必要経費」で計算します。つまり、何が経費になるかを正しく押さえることが、税金を適正に抑えるいちばんの近道です。一方で、「ローンの返済額」や「物件の購入代金」をそのまま経費にしてしまう誤りもよく見かけます。
この記事では、不動産所得で経費になるもの・ならないものを一覧で整理し、よく間違えるポイントを解説します。
不動産所得の計算方法
総収入金額 − 必要経費 = 不動産所得の金額(青色申告の場合は、さらに青色申告特別控除を差し引きます)
総収入金額には、毎月の家賃のほかに次のようなものも含まれます。
- 礼金・権利金・更新料・名義書換料・承諾料
- 敷金・保証金のうち、返還しないことが確定した部分
- 共益費などの名目で受け取る電気代・水道代・掃除代
家賃は、原則として契約で決められた支払日の年の収入になります。たとえば「翌月分を当月末までに支払う」契約なら、12月末に受け取る1月分の家賃は、受け取った年(12月の年)の収入です。
反対に、契約で支払日が決まっている場合は、その日にまだ入金されていなくても、原則として未収家賃として収入に計上します。「実際に入金された年の収入」ではない点に注意してください。
また、帳簿を備えて継続的に記帳し、前受収益・未収収益を経理しているなど一定の要件を満たす場合は、貸付期間に対応させて収入を計上する方法も認められています(事業的規模でない場合は、1年以内の期間の賃貸料に限ります)。
経費になるもの一覧
| 経費 | ポイント |
|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 賃貸物件の土地・建物にかかる分 |
| 不動産取得税・登録免許税 | 賃貸用の土地・建物を取得したときの分(業務用の土地・建物にかかるものは必要経費) |
| 減価償却費 | 建物・設備の取得費を耐用年数に応じて分割して経費にする(土地は対象外) |
| 借入金の利息 | 物件の購入・建築のためのローン利息(元本部分は経費にならない) |
| 損害保険料 | 火災保険・地震保険など。数年分を一括で払った場合は、その年に対応する分だけ |
| 修繕費 | 壁紙の張替え、設備の修理、退去後の原状回復など |
| 管理委託費・管理費 | 管理会社への委託料、マンションの管理費 |
| 入居者募集の費用 | 仲介会社への広告料・仲介手数料 |
| 税理士・司法書士などの報酬 | 不動産所得の帳簿作成や決算・申告に直接関係する部分。給与・譲渡所得・相続税など他の内容も含む依頼料は、不動産所得に対応する部分を合理的に区分する |
| その他 | 物件を見回るための交通費、入居者との連絡のための通信費、共用部分の電気代・清掃費など |
自宅の一部を貸している場合など、家事用と兼ねている費用は、賃貸に使っている部分だけが経費になります。
経費にならないもの
| 支出 | 理由・正しい処理 |
|---|---|
| ローンの元本返済 | 借りたお金を返しているだけなので経費にならない。建物部分は減価償却費として経費になる |
| 物件の購入代金 | 建物は減価償却で分割して経費に。土地は減価償却しないため、売却するまで経費にならない |
| 購入時の仲介手数料 | 土地・建物それぞれの取得価額に含める。建物部分は減価償却で経費に、土地部分は経費にならない(入居者募集の仲介手数料とは別) |
| 購入時に売主へ払う固定資産税の精算金 | 自分が納める税金ではなく、物件代金の一部として取得価額に含める |
| 所得税・住民税 | 個人にかかる税金なので経費にならない |
| 自分や家族が住む部分の費用 | 生活費(家事費)なので経費にならない |
| 生計を一にする家族に払う管理料など | 家族への支払いは原則として経費にならない |
特に多い誤りが、ローンの返済額をまるごと経費にしてしまうケースです。返済額のうち経費になるのは利息だけです。元本と利息の分け方は「借入金の返済は経費になる?元本と利息の違い」をご覧ください。
間違えやすいポイント
① 貸付用資産には少額資産の特例を使えない場合がある
通常の事業では、10万円未満のものは買った年に全額経費にできます。しかし、令和4年4月1日以後に取得した貸付用の減価償却資産のうち、その貸付けが「主要な業務として行われる貸付け」に当たらないものは、10万円未満の少額資産、20万円未満の一括償却資産、青色申告者の少額減価償却資産の特例の対象外です。
ただし、「主要な業務」の判定と、不動産所得の「事業的規模(5棟10室基準)」の判定は同じではありません。国税庁は、不動産貸付業を営む人が、貸し付ける建物の賃借人に家具・電気機器などを貸し付ける行為を、主要な業務として行われる貸付けの例として示しています。入居者用の設備が特例の対象になるかどうかは、個々の契約内容や利用状況によって判断が必要です。
② 建物は「定額法」だけ
平成10年4月1日以後に取得した建物は、定額法でしか減価償却できません(平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備・構築物も同様)。相続や贈与で取得した場合も同じです。減価償却の基本は「減価償却をわかりやすく解説」をご覧ください。
③ 修繕費と資本的支出を区別する
元の状態に戻すための修理は修繕費として経費になりますが、建物の価値を高めたり、使える期間を延ばしたりする工事(間取りの変更、グレードアップなど)は「資本的支出」として減価償却します。1回の工事が20万円未満、またはおおむね3年以内の周期で行うものは、修繕費にできます。詳しくは「修繕費と資本的支出の違い」をご覧ください。
④ 赤字でも、土地のローン利息分は他の所得と相殺できない
不動産所得が赤字になった場合、給与所得などの黒字と相殺(損益通算)できます。ただし、土地を取得するための借入金の利息に相当する部分の赤字は、損益通算できません。正確には、「土地等を取得するための借入金の利息」と「不動産所得の赤字」のいずれか少ない金額が、損益通算の対象から除かれます。
たとえば、不動産所得の赤字が100万円で、そのうち土地の借入金利息が30万円なら、損益通算できるのは70万円です。赤字が20万円で土地の利息が30万円なら、赤字の全額が損益通算できません。建物と土地をまとめてローンで買った場合は、利息を建物分と土地分に分けて計算する必要があります。
また、別荘など主に趣味・娯楽・保養のために持っている不動産の貸付けによる赤字も、損益通算の対象外です。
「事業的規模」かどうかで変わること
不動産の貸付けが「事業として」行われているかどうかで、経費や控除の扱いが変わります。建物の貸付けは、次のどちらかに当てはまれば、原則として事業的規模として扱われます(いわゆる5棟10室基準)。
- アパート・貸間などは、独立した室数がおおむね10室以上
- 独立した家屋(一戸建て)は、おおむね5棟以上
| 項目 | 事業的規模 | 事業的規模でない |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除(令和8年分まで) | 要件を満たせば最高55万円(65万円) | 最高10万円 |
| 家族への給与(専従者給与・専従者控除) | 使える | 使えない |
| 建物の取壊し・除却などの損失 | 全額経費 | その損失を差し引く前の不動産所得の金額が限度 |
| 家賃の回収不能(貸倒れ) | 回収不能になった年の経費 | 収入に計上した年にさかのぼって計算をやり直す |
5棟10室に満たなくても、実態として事業と言える規模かどうかで総合的に判断されることもあります。なお、青色申告特別控除は令和9年分から見直されます。詳しくは「青色申告の75万円控除|令和9年分から引き上げ」をご覧ください。
よくある質問
マンションの修繕積立金は経費になりますか?
区分所有マンションを貸している場合、管理組合に払う修繕積立金は、原則として実際に修繕が行われ、完了した年の経費になります。ただし、管理規約で①支払義務がある、②返還されない、③修繕以外に流用されない、④長期修繕計画に基づき合理的に算出されている、という要件を満たしていれば、支払期日の年の経費にしても差し支えないとされています。一般的な管理規約であれば当てはまることが多いですが、念のため規約を確認してください。
不動産の貸付けを始めたら、何か届出は必要ですか?
事業的規模で貸付けを始めた場合は「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。青色申告をしたい場合は、原則として貸付けを始めた日から2か月以内(1月15日以前に始めた場合は3月15日まで)に「所得税の青色申告承認申請書」を提出します。事業的規模でなくても、青色申告(10万円控除)は選べます。
給与所得者で家賃収入が少しだけあります。申告は必要ですか?
給与所得者で、給与以外の所得(不動産所得など)の合計が20万円以下であれば、原則として所得税の確定申告は不要です。ただし、住民税の申告は別途必要になる場合があります。詳しくは「副業の確定申告はいくらから必要?」をご覧ください。
まとめ
- 不動産所得は総収入金額 − 必要経費。礼金・更新料・返還しない敷金も収入になる。未入金の家賃も支払日が来れば収入
- 固定資産税、減価償却費、ローンの利息、保険料、修繕費、管理費などは経費になる
- ローンの元本、土地の購入代金、購入時の仲介手数料(取得価額に含める)は、その年の経費にならない
- 貸付用の資産は、主要な業務としての貸付けに当たらなければ少額資産の特例が使えない(5棟10室基準とは別の判定)
- 土地のローン利息に相当する赤字は、損益通算できない
- 5棟10室を目安に事業的規模かどうかで、青色申告特別控除や専従者給与の扱いが変わる
賃貸経営は、購入時の処理を誤るとその後何十年も減価償却の計算に影響します。物件を買う前・相続する前に、お気軽にご相談ください。
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参考
- 国税庁 タックスアンサー No.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」
- 国税庁 タックスアンサー No.1376「不動産所得の収入計上時期」
- 国税庁 個別通達「不動産等の賃貸料にかかる不動産所得の収入金額の計上時期について」
- 国税庁 所得税基本通達 法第26条関係(27-2 有料駐車場等の所得)
- 国税庁 所得税基本通達 少額の減価償却資産及び一括償却資産関係(49-39の3 主要な業務として行われる貸付けの例示)
- 国税庁 タックスアンサー No.1373「事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」
- 国税庁 タックスアンサー No.1391「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」
- 国税庁 タックスアンサー No.2100「減価償却のあらまし」
- 国税庁 タックスアンサー No.2215「固定資産税、登録免許税又は不動産取得税を支払った場合」
- 国税庁 タックスアンサー No.1379「修繕費とならないものの判定」
- 国税庁 タックスアンサー No.1399「新たに不動産の貸付けを始めたときの届出など」
- 国税庁 質疑応答事例「賃貸用の土地建物を購入した際に支払った仲介手数料の取扱いについて」
- 国税庁 質疑応答事例「賃貸用アパートを購入した際に支払った固定資産税及び都市計画税相当額の清算金の取扱いについて」
- 国税庁 質疑応答事例「賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い」



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