取引先が倒産した、売掛金の入金が止まった——そんなとき、まず思い浮かぶのは「貸倒損失」かもしれません。
ただ、貸倒損失は要件が厳しく、破産手続が始まっただけでは、まだ計上できないのが原則です。
そこで出番になるのが貸倒引当金です。回収できないことが確定する前の段階でも、一定の要件を満たせば損金(必要経費)にできます。この記事でわかりやすく解説します。
貸倒損失との違い
| 貸倒損失 | 貸倒引当金 | |
|---|---|---|
| タイミング | 回収不能が確定したとき | 回収不能が見込まれるとき |
| 金額 | 債権の額 | 債権の一定割合など |
| 翌期の処理 | なし | 全額を戻し入れる |
| 使える人 | 制限なし | 法人は中小法人など一定の法人。個人は事業を営む人(一括評価は青色申告者) |
貸倒引当金は「見込み」の段階で使えるのが最大の特徴です。一方で、翌期には全額を戻し入れる(益金に計上する)必要があります。
使える人は、法人は中小法人など一定の法人が対象です。個人は、個別評価については不動産所得・事業所得・山林所得を生ずべき事業を営む人、一括評価については事業所得を生ずべき事業を営む青色申告者が対象です。個別評価は青色申告者に限定されません。
貸倒損失については「売掛金が回収できないときの貸倒損失|経費にできる3つのケースと要件」で解説しています。
貸倒引当金には2種類ある
| 対象 | 考え方 | |
|---|---|---|
| 個別評価 | 特定の取引先の債権 | 問題が起きている相手ごとに個別に計算 |
| 一括評価 | それ以外の売掛金等すべて | 期末残高にまとめて一定率をかける |
この2つは併用できます。取引先が倒産したときは個別評価を、それ以外の通常の売掛金には一括評価を使う、というのが一般的です。
個別評価|取引先に問題が起きたとき
個別評価の貸倒引当金は、次の4つの事由に応じて繰入限度額が決まります(法人税法施行令96条1項)。
| 事由 | 繰入限度額 | |
|---|---|---|
| 1号 | 更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可の決定など | 原則として、事由が生じた事業年度終了日の翌日から5年以内に弁済される金額と、担保等による回収見込額を除いた金額 |
| 2号 | 債務超過の状態が相当期間継続し事業に好転の見通しがない、災害・経済事情の急変で多大な損害が生じたなど | 取立ての見込みがない金額 |
| 3号 | 更生手続開始の申立て、再生手続開始の申立て、破産手続開始の申立て、特別清算開始の申立て、手形交換所の取引停止処分 | 債権額の50% |
| 4号 | 外国の政府・中央銀行・地方公共団体の長期の債務履行遅滞 | 債権額の50% |
実務でいちばん使うのは「3号の50%」
ここが実務上、最も重要なポイントです。
一定の法人では、破産手続開始の申立てが決算日までに行われている場合、回収可能額などを除いた債権の50%を限度として貸倒引当金を繰り入れられます。破産手続開始の決定や、配当額の確定を待つ必要はありません。
ただし、申立てがあれば無条件に50%を損金にできるわけではありません。相殺可能額や担保等による回収見込額を控除し、決算で貸倒引当金として繰り入れ、申告書に明細を添付する必要があります。
取引先が倒産した場合、破産手続が終わって配当額が確定するまでには何年もかかることがあります。その間ずっと売掛金が資産に残ったままでは、実態と合いません。この制度は、そのズレを埋めるためのものです。
50%の計算のしかた
債権額そのものの50%ではなく、回収が見込める部分を除いてから50%をかけます。
(債権額 − 実質的に債権とみられない部分 − 担保等により回収が見込まれる部分)× 50%
「実質的に債権とみられない部分」とは、たとえば同じ相手に買掛金がある場合の、その買掛金に相当する金額です。相殺できる部分は貸倒れのリスクがないため、除きます。
「担保等により回収が見込まれる部分」とは、担保権、信用保険、金融機関・保証機関の保証など、客観的に回収が見込まれる金額です。代表者の個人保証などがあっても、保証人に資力がなく実際に回収が見込めない場合まで機械的に全額を控除するわけではありません。
【計算例】
取引先A社に対する売掛金 500万円
A社に対する買掛金 100万円
担保等による客観的な回収見込額 なし
A社について破産手続開始の申立てがあった場合
(500万円 − 100万円)× 50% = 200万円を限度として、貸倒引当金に繰り入れられます。
【仕訳例】
(借方)貸倒引当金繰入 2,000,000 / (貸方)貸倒引当金 2,000,000
ここで押さえておきたいのは、この50%は「貸倒損失」ではないということです。売掛金500万円は帳簿に残したまま、貸倒引当金を別に計上します。また、50%は繰入れが認められる上限額であり、必ず上限まで計上しなければならないわけではありません。
「相当期間」はおおむね1年以上
2号の「債務超過の状態が相当期間継続し」の相当期間とは、おおむね1年以上とされています(法人税基本通達11-2-6)。
ただし2号は、金額の見積りに客観性が求められるため、実務では3号(申立てによる50%)のほうが使いやすい場面が多くなります。
一括評価|通常の売掛金にかける
一括評価は、期末の売掛金・受取手形・貸付金などの合計額に一定率をかけて計算します。問題が起きていない、普通の債権が対象です。
計算方法は2つあり、有利なほうを選べます。
① 貸倒実績率による方法
期末の一括評価金銭債権の合計額 × 貸倒実績率
貸倒実績率は、過去3年間に実際に発生した貸倒れの実績から計算します。貸倒れがほとんど発生していない会社では、率がゼロに近くなります。
② 法定繰入率による方法(中小企業者等のみ)
| 主たる事業 | 法定繰入率 |
|---|---|
| 卸売業・小売業(飲食店業を含む) | 1,000分の10 |
| 製造業 | 1,000分の8 |
| 金融業・保険業 | 1,000分の3 |
| 割賦販売小売業等 | 1,000分の7 |
| その他の事業 | 1,000分の6 |
実際に貸倒れが少ない会社では、法定繰入率のほうが有利になることがほとんどです。
ただし法定繰入率を使う場合は、期末債権から「実質的に債権とみられないもの」を控除してから率をかけます。
【計算例】小売業・期末売掛金3,000万円・買掛金との相殺部分200万円の場合
(3,000万円 − 200万円)× 10 ÷ 1,000 = 28万円
2つ以上の事業を営んでいる場合は、主たる事業の率で計算します。事業ごとに分けて計算するわけではありません。
使えるのは中小法人だけ
貸倒引当金の損金算入ができるのは、次の法人に限られます。
- 資本金1億円以下の中小法人(資本金5億円以上の大法人の100%子法人等を除く)
- 銀行・保険会社など一定の金融業を営む法人
- 公益法人等、協同組合等、人格のない社団等
なお、法定繰入率を使えるのは中小企業者等で、適用除外事業者(過去3年の平均所得が15億円超)に該当するものは除かれます。
個人事業主の場合
個人事業主も貸倒引当金を使えますが、法人とは率が異なります。
| 内容 | |
|---|---|
| 個別評価 | 法人と同じ考え方(申立て等があれば50%) |
| 一括評価 | 年末の貸金の合計額 × 5.5%(金融業は3.3%) |
| 対象者 | 一括評価は青色申告者のみ |
個人の一括評価は5.5%と、法人の法定繰入率(1%など)に比べてかなり高い率です。売掛金が多い事業では、青色申告のメリットのひとつになります。
なお、一括評価の対象にならない主なものは次のとおりです。
- 保証金、敷金
- 資産を取得するための手付金・前渡金
- 前払給料、概算払旅費などの一時的な仮払金・立替金
- 同じ相手方の買掛金等と相殺できる金額
ただし、これらが常に個別評価の対象外になるわけではありません。たとえば、保証金の返還請求後に貸倒れに類する事由が生じた場合は、個別評価の対象になる可能性があります。
忘れてはいけない3つの注意点
① 翌期に全額を戻し入れる(洗替え)
貸倒引当金は洗替方式です。前期に繰り入れた金額は、翌期に全額を取り崩して益金(収入)に計上し、あらためて当期分を繰り入れます。
前期の引当金はいったん翌期の益金に戻しますが、翌期末にも要件を満たしていれば、その時点の債権額を基に改めて繰り入れます。貸倒引当金は永久的な免税ではなく、原則として課税時期を先送りする制度です。
② 証拠書類の保存が要件
個別評価では、その事由が生じていることを証明する書類を保存していないと、適用が認められません(法人税法施行令96条2項)。
破産のケースであれば、裁判所の通知書、破産管財人からの通知、官報の写しなどを必ず保管してください。債権届出を行った控えも重要な資料になります。
③ 消費税は動かない
貸倒引当金の繰入れ・戻入れは、対価を得て行う取引ではないため、消費税の計算対象外です。引当金を計上しても、消費税は1円も減りません。
消費税で控除できるのは、実際に売掛債権等の貸倒れが生じ、一定の要件を満たしたときです(消費税法39条)。しかもこの規定は「課税資産の譲渡等の相手方に対する売掛金その他の債権」が対象なので、決済代行会社への未収金など、商品を売った相手そのものに対する債権でない場合は、対象外になる可能性があります。
契約関係によって判断が分かれる部分ですので、迷ったら個別にご確認ください。
取引先が倒産したときの実務の流れ
| 順番 | やること |
|---|---|
| 1 | 破産管財人・裁判所からの通知を確認し、債権届出を期限内に行う |
| 2 | 売掛金の残高、相殺できる買掛金、担保・保証の有無を整理する |
| 3 | 申立ての事実を証明する書類を保存する |
| 4 | 決算で個別評価の貸倒引当金(50%)を繰り入れる |
| 5 | 配当、破産手続の終結・廃止、残余財産の有無などを確認し、残額について貸倒損失の要件を満たした時点で処理する |
債権届出を怠ると、配当を受けられないだけでなく、「回収できないこと」を示す資料も残りません。まずは届出を確実に行ってください。
よくある質問
申立てを知ったのが決算後だったら?
「申立てがあった日」と「知った日」を分けて考えます。
決算日までに申立てが行われており、申告前にその事実を知って証明書類を用意できた場合は、その決算期で適用できる可能性があります。一方、申立て自体が決算日の翌日以後であれば、原則として翌期の処理になります。
手形が不渡りになった場合は?
決算日までに不渡りとなり、申告書の提出期限までに手形交換所の取引停止処分が生じた場合は、その事業年度で3号の適用ができます(法人税基本通達11-2-11)。
申告書に何か添付が必要ですか?
法人は別表十一(一)(個別評価)・別表十一(一の二)(一括評価)の添付が必要です。個人事業主は青色申告決算書の該当欄に記載し、個別評価の場合は明細書を添付します。
回収できた場合はどうなりますか?
翌期に全額を戻し入れるため、自動的に調整されます。予想より多く回収できても、修正申告などは必要ありません。
まとめ
- 貸倒引当金は、回収不能が確定する前に損金にできる制度
- 決算日までに破産手続開始の「申立て」があれば、回収可能額などを除いた債権の50%を限度に繰り入れられる(開始決定を待つ必要はない)
- 50%は、相殺できる買掛金や担保等による客観的な回収見込額を除いてから計算する。貸倒損失ではなく、売掛金は帳簿に残る
- 一括評価は中小法人が対象。法定繰入率は卸売・小売10、製造8、その他6(1,000分比)
- 個人事業主の一括評価は5.5%(金融業3.3%)。青色申告者のみ
- 証拠書類の保存が要件。翌期に全額戻し入れる(洗替え)
- 貸倒引当金の繰入れは消費税の計算対象外。消費税が減るのは実際に貸倒れが生じたとき
取引先の倒産は、いつ起きるかわかりません。「まだ確定していないから何もできない」と諦める前に、貸倒引当金が使えないか確認してみてください。ご不明な点はお気軽にご相談ください。



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